【美輪明宏】ソフィア・ローレンの『ひまわり』に見る戦争の悲劇について
今日はイタリアの大女優ソフィア・ローレンについてお話したいと思います。この人が最初に日本で公開されたのは、祭の中へ出てくるひとりの女で、別に役名とかは無かったんですね。
ただ普通の男の方や女の方よりも、背が高くて顔が小さくてスタイルが抜群だったんですね。それで私は、あんな格好いい女がいるのかと思いましたね。それがまず最初でした。
私には、彼女の出演しているお気に入りの作品はたくさんあるんですけど、ヴィットリオ・デ・シーカの『自転車泥棒』っていう映画。これは終戦後に封切られて感動したんですけどね。デ・シーカは終戦後に非常にリアルな映画をたくさん撮ったんですね。その『自転車泥棒』とか『ふたりの女』という映画を撮ったデ・シーカ。この『ふたりの女』っていうのが本当に泣かせるんです。
母親役をソフィア・ローレンが演じたんですけど、戦争によって親子とも敵の兵隊に強姦されちゃうんですよ。滅茶苦茶な人生にされちゃう。それは当時、どこの国でもあった話ですけど。
それを情緒纏綿に、ただ悲惨に撮るっていうんじゃなくて、その悲しみを本当にロマンで包んでさりげなく差し出すっていう素晴らしい映画でしたね。これでアカデミー賞の主演女優賞を獲ったんですね。
今日、みなさまに聞いていただきたいのは『河の女』っていう、これが日本の観客に大刺激を与えたんですけどね。ソフィア・ローレンが演じてまして、まぁとにかく、足も太ももまでむき出しのショーツでマンボを踊るんですね、みんなで。「マンボ、バカン」って言って歌いながら踊るのが、これがウェストが細くて、胸が滅茶苦茶大きくて、骨盤が張ってて、太ももがバーンと大きくて、ひざから下が細くて、首が長くて。それが踊り狂うんで、日本の男性たちは唖然茫然で、一遍にファンになったんですね。
映画『ひまわり』(1970年公開)
本当はその映画の音楽をかけようを思ったんですけども、朝でございますし、情緒纏綿とした素敵なメロディの方が良いかと思いまして、『ひまわり』という映画。ご覧になった方も多いと思いますけど、マルチェロ・マストロヤンニっていうイタリアの名優なんです。ソフィア・ローレンの共演者としては彼が一番数多くの映画に出たんじゃないでしょうか。
ソフィア・ローレンはマルチェロ・マストロヤンニと夫婦だったんだけど、マストロヤンニの方が出征して兵隊にとられて、帰ってこないんで、彼女は終戦後ボロボロになりながら、かつて敵地だった所に、なけなしの金をはたいて、訪ねて行くんですよ。そしたら奇跡的に見つかるんです。見つかったらなんと、現地の女の人と結婚してて子どもまでいて、幸せに暮らしてる。そのときのもう…わたくし今思い出しても泣けますけど。
それは終戦後、身の回りにいっぱいあった出来事なんですよ、この日本でも。現地の人と一緒になって日本へ帰ってこない。それで訪ねて行ってみたら、向こうに人と結婚して幸せに暮らしている。そういうことがたくさんございましたでしょう?それを思い出すんですね。
その映画の主題歌でございます。『ひまわり』、ぜひ聞いていただきたいと思います。
ソフィア・ローレン主演の映画『ひまわり』のテーマ曲を聴いていただきました。
TBSラジオ『薔薇色の日曜日』2015年8月16日放送分より