【美輪明宏】『ウェストサイドストーリー』の素晴らしさと最近のミュージカルのくだらなさについて語る
今日はミュージカル映画『ウェストサイドストーリー』についてお話させていただきたいと思います。
映画の公開は1961年でございまして、ニューヨークの下町、ダウンタウンを舞台にした現代版『ロミオとジュリエット』のお話でございます。シャーク団というプエルトリコ系の移民の不良集団がありまして、それに対抗してジェット団という、これは白人系の集団。これとの対立ですね。
人種的な色々な偏見とか対立とかがあって、それのちょうど『ロミオとジュリエット』の仲たがいをしている家同士のものが恋をするという。それを移し替えて、いいところに目を付けたなあ、と思いましたけどね。
作曲を担当したのが、これがユダヤ系のアメリカ人でございまして、レナード・バーンシスタイン。これはクラッシックの方々だったらほとんどご存じだと思いますけどね。カラヤンと並ぶくらいの大巨匠で、いかにも現代版のアメリカでありながら、古典的な要素をしっかり踏まえたうえで、それで素晴らしく新しい味付けもした。こういう作曲はなかなかいませんね。バーンスタインだからこそ、できたんだと思いますね。
この映画を見たのは、私は20歳代だったと思いますけどね。ちょうど『ヨイトマケの歌』を歌っていたころでございましたけどね。『ヨイトマケの歌』もどっちかっていうと階級差別の歌ですからね。これを見た時にやっぱり差別って言うのは撤廃されるべきだと思ったし、どこの世界にもあるもんですけど。最後に差別に勝つのは、これは知性しかないな、というふうに思った。そういう記憶がございますけどね。
何といってもこの映画の魅力は曲の美しさ、楽しさですね。というのは、これは昔からありましたけど、ミシシッピ川を行ったり来たりする『ショウボード』という船がありまして、それを舞台にしたミュージカルがありまして。戦前のミュージカルって言うのはメロディがとっても簡単で、きれいで、お客様が帰るときに口ずさんで帰れるような、そういう美しい楽しい覚えやすいメロディっていうのが前提で、それの作品の一番最後がこの『ウェストサイトストーリー』ですね。
最近のミュージカルは…
最近もいろいろなミュージカルが次から次と、日本版みたいになって上演されてますけど、くだらないですね。曲が屁みたいな曲ばかり。全然メロディらしいメロディが無くて、豚の寝言みたいな、豚のお経みたいな。口が悪くなりましたけど、それぐらい怒ってるんですよ。
もういろんなものを見に行きました。ブロードウェイも見に行きましたしね。『サンセット大通り』であるとか、期待していったんですよ。もう、見事に期待を裏切られて「何だ、これは!」って「これでミュージカルって言えるのか?」って。そういうのばっかりでしょ?
ところがこの『ウェストサイドストーリー』は、それの最後で、本当に楽しいですしね。ダンス合戦のところなんかも素晴らしいですし。「♪トゥナイト トゥナイト」ってところのっメロディもとてもきれいですし。
まぁ愚痴ばっかり言ってても仕方ありません。ぜひご覧になってくださいね。
TBSラジオ「美輪明宏 薔薇色の日曜日」2015年5月放送分より