【美輪明宏】「ムダは必要ムダ」について語る
さっそく、みなさまがお寄せくださいましたお便りをご紹介させていただきます。
ラジオネーム、エルザ。うーん素敵な野生のエルザの方ですね。
最近、この番組がきっかけで美輪さんの本を読ませていただくようになりました。なかでも戦前の文化にあふれたころのお話にうっとりしております。特に「昔は生活のあらゆるところにムダがあった」という文章がとても気に入っています。ぜひこのムダについてお話しいただけますでしょうか。
という丁寧なお手紙ですけど、ムダっていうのは必要ムダなんですよ。
今みたいにタイム・イズ・マネーで何もかも早く早く、それだけで時間のムダを全部省いてきましたでしょう?時間のムダを全部省いているから、やらなきゃいけないことに追い立てられて、それでボーッとする時間の中で妄想したりすることがなくなってきちゃったってことでしょう。
ですから本についても、社会に出た男の方が読むのは実業的・実用的なノウハウものばかりです。今の仕事に関係のあるものばかり。テレビを見るにしても、ニュースとスポーツ番組ぐらいしか見ない。後はもう、くだらないって言って見ない。
趣味の時間や勉強の時間を無駄だということで切ってしまいますでしょう?そうするとそれを見ていたお子さんもそういう風になってきます。心も乾いてきます。食べていくうえの情報だけしか入らないと、あとはなんにも分からない人間になっちゃうんです。コンピューターみたいになっちゃう。それは恐ろしいですよね。余白を楽しむとか、そういうものがなくなっちゃう。
最近は絵や何かも家の中にはいらないからといって、無駄だからっていうことで、絵も飾らない。
ムダじゃないんですよ。その絵を見てると「おらや」って感じがするし、ホッとするし、気に入った絵であればそれが人間と同じように慰めてくれるんです。
昔は自分をよく理解してくれる人間が大所帯の中でもなかなかいない。自分の部屋に戻ると自分を選んだ本とか絵が飾ってある。その本や絵が自分の友達であり、親であり、親友であり、恋人である。そういう文化があったんです。それは必要ムダなんですよ。それを全部削っちゃったということで、おかしくなっているんです。残念ですね。
TBSラジオ『岡村仁美 プレシャスサンデー』 薔薇色の日曜日より