【美輪明宏】探偵小説の超ボス、江戸川乱歩について
今日のお話は、今年没後50周年に当たります、作家の江戸川乱歩さんという探偵作家についてでございます。お若い方はごぞんじない方もいらっしゃるかもしれませんけどね。
探偵小説という世界の超ボスでございまして、どういう作品を書いてましたかって言ったら、子ども向けの『少年探偵団』のシリーズものですね。「怪人二十面相」「D坂の殺人事件」。あと『淫獣』っていうのは子ども向けじゃありませんでしたけど。
子ども向けの作品から猟奇的でグロテスクなものまで、幅広くお描きになってらっしゃいましたね。私が東京に出てきてから最初に知り合った大物の有名人が、この江戸川乱歩さんだったんですね。
亡くなってから今年で50周年になりますけど、また注目され始めているようです。
今もそうやって大人気の乱歩さんなんですけども、戦前戦中は苦労なさいまして。というのは江戸川乱歩さんだけじゃなくて絵描きさんなんかもみんな苦労したんですね。美人画を書いていた人もみんな退廃的であるって、戦争画以外書いちゃならないっていうことで、筆を折られまして、戦争の絵しかかいちゃいけなかったんですね。
文学界でも、一番上が俳句や和歌の純文学で、次に小難しい文学的な作品を書く人。その次が大衆小説家。その下に探偵小説みたいなものがあって、その下が漫画。そういうふうに暗黙の裡に、妙なランク付けがあったんですね。
それを江戸川乱歩さんは悔しがっていらしてね。探偵作家協会というのをお作りになって、その運動をずっと続けて、ステータスを上げて行って、それで松本清張さんあたりになったら完全に市民権を得て、探偵小説家でも偉いということになって、有識者として認められるようになったんですね。それまでにとってもご苦労なさってらっしゃいましたね。
戦争中は内務省の検閲がうるさいもんですから。「ここはこういうふうに書き直せ」とか「ここは削除しろ」とか。そして反戦的な内容の『イモムシ』という作品があって、これもデカタンスな作品だってことで、発売禁止にされちゃったんですね。
『孤島の鬼』っていうのは、同性愛をテーマにした長編推理小説でとっても哀れな、悲しい物語なんですけどもね。これも戦意高揚の時代にふさわしくないということで、排斥されたり。そういうことがあったっておっしゃってましたね。
おもしろいのは『パノラマと奇談』という小説。これは売れない作家が自分とそっくりの大富豪になりすましまして、自分の理想郷「パノラマ」を建設する幻想犯罪小説なんです。
その他にも幻想小説の『押入れと旅する男』とか『屋根裏の散歩者』『人間椅子』。こういうものがあります。こういうものを私は小学校の頃から読んでたんですから、ませたガキでしたね。
でも、それで知識を仕入れてたおかげで16歳の時に先々代の中村勘三郎さんの紹介で、江戸川乱歩さんを紹介された時に、もうトントンと話が進んだんですよ。何でも読んでおくもんですね。みなさまもどうぞ。
TBSラジオ『薔薇色の日曜日』2015年放送分より