【美輪明宏】戦後の流行歌、並木路子『リンゴの歌』について語る
今日は楽しいですよ!戦後の流行歌をお届けしましょう。後ほどおかけいたしますけどね。
私、本や何かにもいつも書いておりますけどね。楽しくて優しい、包んでくれるような音楽。これが生活の中でずーっと世間で流れておりますと、人々がやさしくなるんですよね。
ですから戦後どこの国でも「米よこせ!」って、日本でもお米は配給でしたし、ヤミ米を買ってくると全部警察に取り上げられましたしね。とにかくメチャクチャな時代でしたよ、本当に。
ヘタしたらよその国みたいに暴動が起きたり、強奪とかそういう騒ぎになる寸前のはずなのに、日本は配給のお粥や何かでも整然と並んでるし、いろんな意味できちっとしていて、「暴動が起きなかったのはなぜだろう?」と思いましたら、つまり闇市に流れている音楽とか、ちょっとした喫茶店とか、家庭でラジオから流れる音楽でも、それはみんな優しい上品な音楽ばかりだったんですよね。カッとなれないし、怒鳴れない。怒鳴り声や何かが似合わない音楽、それが街中、家の中でもどこでも流れてたんですよね。
「♪あなたと二人で来た丘は 港が見える丘」(『港が見える丘』)とか「♪星は瞬き 夜深く」って『夜のプラットホーム』だとかね。「♪若かり 歌声に」、『青い山脈』。こういうものが日本中にあふれてたんです。
消火器みたいに犯罪を犯そうとしている気持ちに水をかけるような、そういう力があったんですね。
ではでは、今日は戦後の流行歌をお届けしましょうね。曲名は『リンゴの歌』。そうですね、この『リンゴの歌』はね、戦後の荒れ果てた日本で、人々が絶望以外の何ものでもなくて、真っ暗だったんですよ。とにかく日本中が悲しみと絶望感に打ちひしがれてた時代ですね。
そのときに『そよ風』というタイトルの映画でございましてね。それの主題歌として使われてましてね。これが流れるとみんなホッとして戦前の良き時代が戻ってくるんだ、そういう希望を与えたそういう最初の歌なんですよね。本当にあの頃のことを考えますと、私涙が出てきますね。よく日本人は頑張りましたよ。
それの「さぁ頑張りましょう」「下ばっか向いてちゃダメよ」「これまで悪いことが散々あったから、もうこれから良い事だけがありますよ」っていうそういう感じの歌でしたね。
そういう事を戦争をご存じない方、終戦後をご存じない方には想像しながら聞いていただきたいと思います。そうするとこの歌が全く違った感じで聞いていただけると思います。ではお届けしましょう。並木路子さんの歌で『リンゴの歌』。
TBSラジオ『美輪明宏 薔薇色の日曜日』2015年9月2日放送分より