【美輪明宏】なかにし礼さんとの出会ったころのエピソードについて語る
なかにし礼さんとの出会いは、まだあの方が学生さんの頃ですね。ちょうどお茶の水にシャンソンのライブを聴かせる喫茶店がございまして、そこでボーイさんをやってアルバイトしてる学生さんだったんですね。
そのうちにシャンソン歌手の人たちがフランス語を読めないし、フランスの語の新しい曲が入ってきますと、その詞が無いんで、なかにしさんがフランス語ができるということでみなさんに頼まれて訳詞を全部手掛けるようにしてらしたのね。
そのうちに銀巴里に遊びに来られるようになって、そういうシャンソン歌手の手引きでね。後ろの方の席のうす暗がりの中で、カウンターの明かりを頼りに、小さなテーブルで頼まれた詩を一生懸命翻訳して、それで実際にその歌い手さんが歌ってみて、「あっ、ここは直した方が良い」「こういう歌詞の方がインパクトがある」だとか「こういう歌詞は使っちゃいけない」だとか。そういう勉強をなさってたのね。
私は、生意気ですけど、自分で作詞したり訳詞したりしてましたんで、(なかにし)れいちゃんには頼んでなかったんですね。それで「ちくしょう。あの人は俺には頼まない」って思ってたらしいんですけどね(笑)、そのころはね。まあ、後で仲良くなりましたけどね。
とにかく、いろんななかにしさんの流行歌や何かの詞で、素晴らしい詞をたくさん大ヒット曲を作るようになりましたけど、原点は本人も言ってましたけどシャンソンなんですね。シャンソンって言うのはみんなドラマチックで、フランス映画じゃないけれど、思考回路とか情念が大人なんですよ。成熟してるんですね。それが全部起点になってると思いますね。
この間も病気が治られて、テレビ局であって良かったねって言うふうに言いましたけど、ああいう昔の人たちが健康で活躍してくれてもっともっとヒット曲を作ってもらいたいと思いますね。
あとは『今日でお別れ』という曲も私、リリースしてますけど、これもなかなか女心を微に入り細にわたって痒い所に手が届くように表現してますから、これも良い曲ですね。
TBSラジオ「美輪明宏 薔薇色の日曜日」2013年放送分より