【美輪明宏】遠藤周作の『沈黙』に与えた影響を語る
今日はお便りからご紹介させていただきます。
初めてメールさせていただきます。さて読書の秋ですね。わたくしは美輪さんと交流があったという遠藤周作さんの小説のファンです。なんでも今度『沈黙』がハリウッドで映画化されるそうですね。遠藤周作さんのエピソードなどラジオでお話しいただければ幸いです。
ラジオネーム おちゃっぴぃ
という方からのメールでございますけどね。
遠藤さんとわたくしが知り合いになりましたのが、昭和27,8年でしょうかね。終戦後でしたね。まだ遠藤周作さんと、吉行淳之介さんと、安岡章太郎さん。こういう方たちが第3の新人って言われてた頃だったんですね。
遠藤さんは面白い方だったんですよ。書けなくなると、あちこち電話して気分転換なさるんですよね。その物まねなんですけど、とっとも下手でらっしゃるのね。「吉行だ」とか「安岡だ」とか、すぐ分かってしまうんですよ。ネタが尽きてね。
柴田錬三郎さんがお師匠さん格でいらっしゃったんですね。あの『眠狂四郎』をお書きになった。それで「柴田さんの物まねなさらないの?」って聞いたら「バカ言え、師匠のマネなんてできるか」なんておっしゃってましたけれどもね。
一度雑誌の対談の時に、「キミは天草四郎の生まれ変わりだそうだな」って言うんで「そうよ」って返したら「じゃあ俺の生まれ変わりはなんだ、俺の前世は何なんだ」って言ったから「豆だぬきでしょ」って返したら「バカ言え!君が天草四郎で、なんで僕が豆だぬきなんだ」って言われたから「たぬきじゃありませんか。嘘ばかりついて」って言ってやったんです。
「で、本当の話どうなんだ?」って聞くから、「ベトナムとか東南アジアの方の神父さんで改宗して、裏切った方のような気がするのよねぇ」って言ったら、スゥーっと顔色が変わって、「心当たりがある」っていうの、「どうして?」って聞いたら「だから俺はフランス語に縁があるんだろうと思う」って言ったから「そういえばベトナムはフランス語圏よね」って言ったら「うん」って。
そして「だってあなたカトリックとは縁がないでしょう?」って聞いたら「いや、それがあるんだ」って言って、深刻に黙り込まれて。
それからしばらく経ったら、『沈黙』を発表なさったのね。わたくしの故郷の長崎の話なんですけどね。まぁとにかく、そこいらへんでよろしいでしょうか。
TBSラジオ『薔薇色の日曜日』2014年10月5日放送分